さて、今回は「画期的な治療法」が見つかった時に、それがどの様にして
世界に広がっていくのかというお話をしてみましょう。
いちご状血管腫という病気が有ります。これは赤ちゃんのみに見られる病気なので、あまり一般的ではありません。
血管腫=赤アザと病名からは考えられますが、どちらかと言うと腫瘍(良性)性の病気です。
出現は生後1ヶ月まで。その後はできることがありません。赤い発疹で出現し、それが広がっていきます。
生後6ヶ月がピークで、その後しぼんでいきます。赤い色は完全になくなりますが、しわができた場合はそれが残ってしまいます。
このいちご状血管腫ですが、治療法は良い物がありませんでした。
液体窒素などで凍らせていた時代も有りましたが、これは傷跡になりやすく、
レーザーは現在の主流ですだ、厚さをましたものには効果が減ってしまいます。
ステロイドの内服も有効ですが、やはり副作用が心配・・・
と、治療の主体は経過観察でした。
でも、このいちご状血管腫がおおきくなると、さあ大変。
目を塞ぐと視力に影響が出ますし、喉で大きくなると呼吸や食事のじゃまになります。
擦れてえぐれて出血するとそれこそ数週間良くならないし・・・
逆にステロイドはしばらく飲まないといけないし・・・
ということで結構やきもきすることのある治療法でした。
と、そこに出てきたのがインデラル内服という治療法でした。
ちなみに、インデラルというのは血圧の薬です。
2008年にNew England Journal of Medicineという雑誌にこの治療法が掲載された所、
非常に大きな反響を呼びました。
これはたまたま心臓病の有る患者さんにいちご状血管腫が出来たが、インデラルを内服した所
非常に効果があったという報告です。
実は、この段階では「なぜ効果あるのか」についてはわかりませんでした。
しかし、患者さんに使った所、効果があることが確かなのです。
その後、世界中でいちご状血管腫に対するインデラル内服について追試が行われました。
そして、どの調査でもいちご状血管腫に対して非常に効果の有ることがわかりました。
私はその情報を知ったのは2010年ころでした。
最初はびっくりした記憶があります。
でも、実際に使用した所、確かに効いているのです。
劇的といっていいくらいです。
さて、現在、このインデラルのいちご状血管腫に対する治療法がどうなっているかというと、
日本でも欧州でも既に治験が開始されています。
数年後には医療保険で問題なく使用することが出来る薬剤になるでしょう。
新しい治療法が見つかって数年です。
その数年で薬剤は市販され、普通に保険診療のなかで治療ができるようになるのです。
このお話は非常にうまく行った例かとは思います。
しかし、私達医療従事者が「効果的な新しい治療法」を見つけたらどのように振る舞うのか。
そして、どのように医療を変えていくのか。
ということを如実に示す一例になると考えます。
本当にいいものでしたらすぐに世の中に広がりますよ。
というお話でした。